結び目と連分数
—平成28年度金沢大学理工学域数物科学類
計算科学コース4年生および自然科学研究科博士前期課程大学院生のために—
2017年1月31日
(2018年8月6日・一部修正)
和久井 道久
このノートを感謝とともに、還暦を迎えられた
金信泰造先生、作間誠先生、中西康剛先生
にささげます。
は じ め に
このノートは2016年10月31日から11月4日にかけて、金沢大学角間キャンパスにて行わ れた計算科学特別講義のために作成したノートです。その特別講義は金沢大学の川越謙一先生 のコーディネイトにより実現されました。
特別講義の依頼を受けた時期、ちょうどKauffmanとLambropoulouの一連の研究[50–53](有 理タングルや有理絡み目に関する様々な結果を初等的な手法で導いたもの)に興味を持ち、読み 始めていた頃だったこともあり、講義のテーマを「結び目と連分数」にし、(非有向)有理絡み 目の入門と連分数の理論の入門を兼ねて彼らの仕事を解説させていただくことにしました。
特別講義のテーマには「結び目」という用語を採用しましたが、実際の主役はタングルです。
タングルという言葉は馴染みがないかもしれません。タングルは英語でtangleと綴り、繊維な どの「もつれ目」 を意味します。トポロジーにおいて(2-)タングルは、球体の中に埋め込まれ た端点のある 2本のひもといくつかの閉じたひもからなり、2本のひもの 4つの端点が球面上 にあるものを指します。このタングルの概念はConway [10]により導入されました。Conwayは 絡み目を交点数の低いものから決定するために、絡み目を表現するための「適切な記法」とし てこのような概念を考えたようです。実際、彼はその記法を利用して 11 交点数以下の結び目 と 10交点数以下の絡み目を決定しています。
タングルの中には有理数(に ∞ を加えたもの)と 1 対 1 に対応する有理タングルと呼ばれ るクラスがあり、その 4つの端点を 2つずつ組にして閉じることによって得られる絡み目は有 理絡み目と呼ばれます。有理絡み目は別の文脈では 2 (本)橋絡み目という名前で登場し、結び 目・絡み目の主要なクラスの 1つとして古くからよく研究されています。
講義はConwayのスクエア・ダンスの説明から始めました。これは2本のロープを使って 4
人(+ 1 人?)で遊ぶゲームで、有理タングルを理解するための導入として最適なように思いま す。次に、結び目・絡み目やタングルの定義と扱い方、連分数(特に、有理数の連分数展開)の 理論と有理タングルのさまざまな表示方法、Conwayによる有理タングルの分類結果の有理タ ングルの連分数表示と整数彩色に基づいたKauffmanとLambropoulouによる証明を順に紹介 し、タングルのKauffmanブラケットを経てKrebes不変量を導入し、その計算方法と有用性を 説明しました。次に、Schubertによる有理絡み目の分類定理を回文連分数との関係を交えて説 明し、近年大きな注目を浴びるようになったDNAトポロジーへの応用、カイラリティ問題へ の応用を述べて終了しました。少し盛りだくさんだったことと時間的制約のために、講義では 証明の詳細や例などが十分に説明できなかった箇所もあります。そういった部分に関してはこ のノートで補っていただけましたら幸いです。このノートがまた、上記の内容に興味のある方 に何らかの形で役に立ってくれたならと思います。
川越謙一先生には宿の選定・予約など準備の段階から相談にのってもらい、金沢滞在中は講 義と生活の両面で暖かいサポートと歓待を受けました。また、思いがけない出来事でしたが、
門上晃久先生、牛島顕先生、そして、福井商業高校で教諭を務められ、現在門上先生のもとで 連分数を研究されている山田泰久先生に拙話を聴いていただくことができました。短い期間で したが交流をもつことができたことはとても嬉しい思い出です。熱心にノートをとりながら聴 いてくれた、金沢大学計算科学コース4年生と自然科学研究科博士前期課程大学院生の諸氏の 姿も印象深く思い出されます。おかげさまで充実したひと時を過ごすことができました。ここ に記して深く感謝申し上げます。
ノートの公開に先立ち、門上先生から定理8 - 11の注意に関して有益なコメントをいただき ました。深く感謝申し上げます。
著者しるす
2017年1月
も く じ
§1. 序論 –Conwayのスクエア・ダンス– · · · · 7
§2.有理数の連分数展開 · · · · 18
§3. 有理タングルの定義とその表示 · · · · 30
§4. 有理タングルの分類 · · · · 55
§5. タングルのKauffmanのブラケット · · · · 68
§6. タングルのKrebes不変量 · · · · 81
§7. 回文と有理絡み目の分類 · · · · 99
§8. DNAトポロジー、カイラリティ問題への応用 · · · · 110
Appendix A. Jones多項式の特殊値と絡み目の行列式とFox彩色 · · · · 123
Appendix B. 無理数の連分数展開と無限タングル · · · · 136
Appendix C. Taitのフライプ定理について · · · · 145
参考文献 · · · · 154
索引 · · · · 159
§1. 序論–Conwayのスクエア・ダンス–
ここではまず、有理タングルの導入として、スクエア・ダンスと呼ばれているConwayが考 案したゲームを紹介する [20, 103]。次に、この講義の主テーマである結び目・絡み目およびタ ングルの厳密な定義とそれらの図式を通した扱い方を説明する。
● 1 - 1 : Conwayのスクエア・ダンス
A
B C
Conwayのスクエア・ダンス(square dance)と呼ばれるゲーム D
は4人が正方形の頂点の位置に立ち、2本のロープを2人1組で 握って行われる。正方形の頂点の位置を図のようにA, B, C, D としておく。初期状態として、A とDの位置に立っている人 同士とBとCの位置に立っている人同士が2本のロープを平
行に握っているところから初めて、次のルール[ツイスト]と[回転]に従ってダンスを踊る。
[ツイスト] C と Dにいる人が場所を入れ替わる。その際、D にいる人はロープを上に持ち上 げてCの場所に移動し、Cにいる人はロープを下に下ろしてDの場所に移動する。
つまり、Dの人が持っているロープがCの人が持っているロープの上を通過するよ うに、場所を入れ替わる。
♣
♦ ♥
♠ ♣
♦ ♠
♥
T T
[回転] 4 人全員がのそれぞれの位置からロープを持ったまま、反時計回りに90◦ 回転して 移動する。
♣
♦ ♥
♠
♣ ♦
♠ ♥
T T
このルールの下でダンスを続けて、任意の回数で止める。すると、ロープが絡んだ状態にな る。このようにして得られるタングルは有理タングルと呼ばれる。
さて、ロープが絡んだ状態から再び上のルールでツイストと回転を繰り返し、もとの絡んで いない状態に戻すことができるだろうか?この問題の解を見つけよというのがConwayのスク エア・ダンスというゲームである。
ツイストを行ったときに T、回転を行ったときにRと記すことにより、行ったスクエア・ダ ンスを記号で表現することができる。例えば、上記の(最初に2回ツイストしてから回転し、ツ イストして回転した)場合、TTRTR のように表記する。
補題 1 - 1
任意の 2-タングル t に対して、ツイストT を行ってから回転 Rを行う操作を 3 回繰り返 すと、もとのタングル tが得られる:
(R◦T)3(t) =t.
(証明)
次図のように変形されることから、補題は証明される。
T −−T⇝ T −−R⇝ T
−−T⇝ T −−R⇝ T
−−T⇝ T −−R⇝ T ∼ T
□ Conwayのスクエア・ダンスが解ける理由をKauffmanとLambropoulou [52; Section 6]に 習って説明しよう。
行列式が 1であるような整数係数の 2次正方行列の全体をSL(2,Z) で表わす:SL(2,Z) :=
{(a b c d
)a, b, c, d∈Z, ad−bc= 1
}とおく。これは行列の積に関して群をなす。v = (p
q )
∈ Z2− {0} に対してQ∪ {∞} の元を
[v] := p q
により定義する(q= 0 のときは p
q =∞ と解釈する)。A= (a b
c d )
∈SL(2,Z) に対して、
[Av] = ap+bq cp+dq となる。次のように定義される R, T ∈SL(2,Z) を考える。
R=
( 0 1
−1 0 )
, T =
(1 1 0 1 )
R は90◦-回転行列であるが、これらの行列は T2 =S1×S1 (⊂S1×D2) 上の向きを保つ同相 写像
R(z, w) = ( ¯w, z), T(z, w) = (zw, w), (z, w)∈S1×S1
と対応している(次図参照)。ここでS1 を絶対値が1 の複素数からなる集合とみなしている。
R
T
さて、任意の p
q ∈Q∪ {∞} をとる。p, q が互いに素(q= 0 のときはp= 1)とすると、
A (p
q )
= (0
1 )
となる A∈SL(2,Z) が存在する。今、任意の v∈Z2− {0} に対して [Rv] =− 1
[v], [Tv] = [v] + 1 であることがわかる。Q∪ {∞} 上の写像R, T を
R(x) =−1
x, T(x) =x+ 1 (x∈Q∪ {∞})
と定める。SL(2,Z) は上記のRとT によって生成されるから、AをR, R−1, T, T−1 の有限個 の積で表示することができる。A=X1· · ·Xk (Xi∈ {R, R−1, T, T−1}) と書くと、
0 = [(0
1 )]
= [
A (p
q )]
= (X1◦ · · · ◦Xk) ([(p
q )])
となる。R−1 =R3, T−1 =RT RT Rであるから、Conwayのスクエア・ダンスは解くことがで きる。
演習. (1) SL(2,Z) は行列の積に関して群をなすことを示せ。
(2) SL(2,Z) はR=
( 0 1
−1 0 )
, T = (1 1
0 1 )
によって生成されることを示せ。
ヒント:(2) a, c, q, r∈Zが a=qc+rを満たすとき、
(0 ±1
∓1 0
) (1 ∓q
0 1
) ( a
±c )
= ( c
∓r )
(複号同 順)が成立する。このこととユークリッドの互除法を使い、A∈SL(2,Z)に左から R, R−1, T, T−1を有 限回適当に掛けると、
(1 ∗ 0 ∗ )
という形になることがわかる。
Conwayのスクエア・ダンスは必ず解けることがわかったが、実際に解くにはどうすればよ
いだろうか。そのアルゴリズムは次のように与えられる [20, 103]。ツイストを行ったか回転を 行ったかに応じて有理数に対する次の2 種類の操作を考える。
(SQD1)ツイストを行った場合、有理数に 1 を加える。すなわち、有理数に T を作用させて
新しい有理数を作る。
(SQD2)回転を行った場合、有理数 xから有理数−1
x を作る。すなわち、有理数に R を作用 させて新しい有理数を作る。
0∈Qから始めてこの操作をスクエア・ダンスで最後に得られた状態まで行うと、1つの有 理数が得られる。
•その有理数が負の場合、ツイストを1回行い、対応する有理数に 1を加えて新しい有理数 を作る。
•その有理数が正の場合、回転を1 回行い、対応する有理数に(SQD2)の操作を行い新しい 有理数を作る。
•その有理数が 0 の場合、何も行わない(すでにもつれは解消されている)。
これを繰り返して行くと、最後には 0の有理数となり、最初の状態に戻ることがわかる。
例1 - 2 TTRTR の場合、
07−→T 17−→T 27−→ −R 1 2
7−→T 1 2
7−→ −R 2
となる。したがって、TTを行えば最初の状態に戻る(これは直接確かめることができる)。 問. その理由を考察せよ。
答. 有理数が 1 以上の正の数の場合、アルゴリズムに従って R を作用させて −1 以上の負の 有理数にする。有理数が 0 と1 の間にある場合には、アルゴリズムに従って R を作用させて
−1 よりも小さな負の有理数にし、適当な回数T を作用させて −1よりも大きい負の有理数に する。よって、始めに与えられた有理数は −1以上 0 未満の負の有理数としてよい。その有理 数を
x:=−p
q (p, q∈N, p≤q) と表わす。アルゴリズムに従って r に T を施すと、
x1 := q−p q
が得られる。p=q ならx1 = 0であるからここで完了である。p < qなら x1 は正の有理数で ある。アルゴリズムに従って、x1 にR を施すと、
x2:=− q q−p が得られる。これは負の有理数だからT を何回か施して
x3 :=− r
q−p (r∈N, r ≤q−p)
を作る(アルゴリズムに従うと0 以上になるまでT を施すことになるが、一旦1つ手前で止め ておく)。xとx3 の分母を比較すると、x3 の分母の方が確実に小さい。したがって、先に述べ たアルゴリズムを繰り返していけば、最後には分母が1 の状態になる。つまり、負の整数にな る。よって、アルゴリズムに従い、T を繰り返し適用して0にすることができる。 □ 演習. n回ツイストを行って得られた有理タングルを、Conwayのスクエア・ダンスによっても との状態に戻す方法を与えて、実際にその方法でもとの状態に戻せることを、nが1,2,3の場 合にその様子を図に描け。
● 1 - 2 : 結び目・絡み目とは
数学としての結び目については、啓蒙書や大学の公開講座などを通して知っている人も多い であろう。数学における結び目とは、1本のひもにいろいろな形の「結び目」を作ってその両 端を閉じて輪にしたもののことをいう。いくつかの結び目が絡んだものは絡み目と呼ばれる。
トポロジーでは連続変形によって(すなわち、ひもを切らずに、もつれをほぐしたり、その逆を 行って)移り合うことのできる2つの結び目・絡み目は同じ結び目・絡み目と考える。ここで は、これらの概念を説明する。
結び目と絡み目の正確な定義を述べよう。自然数mに対してm個の単位円周S1 ={(x, y)∈ R2 | x2+y2 = 1 } の R3 への埋め込みの像を m-成分絡み目(link)という。m を絡み目の成 分数といい、各連結成分を単にその絡み目の成分(component)と呼ぶ。1-成分絡み目を結び目
(knot)という。絡み目 Lの成分数を#Lで表わす。下図に描かれている 3つの絡み目のうち、
一番左のものは 4葉結び目であり、中央はホップ絡み目(Hopf link)、一番右のものはボロミア ン環(Borromean rings)と呼ばれる絡み目である。
絡み目は、それが有限個の線分を繋いでできているとき、折れ線絡み目(polygonal link)と呼 ばれる。この講義では、単に絡み目と呼べば、折れ線絡み目を指すものと約束する。但し、そ れを図示するときには多くの場合、滑らかな曲線で表わす。
絡み目L の各成分Li に、(多様体としての)向きが指定されたものを向きづけられた絡み目 (oriented link)と呼ぶ。Li の向きはfi(S1) =Li となる埋め込みfi :S1 −→R3 によって指定 することができるが、図示するときには辺に矢印を付けて表わす。
結び目理論においては、次の問題は基本的である。
結び目理論における基本問題 2つの結び目 K1 と K2 が与えられたとき、それらがR3 内に おいて連続変形で移り合うか否かを判定する方法を見つけよ。例えば、次の2つの結び目(どち らも三葉結び目と呼ばれる)はR3 内における連続変形で移り合うだろうか?
連続変形で移り合うことの意味を精密に述べよう。L をm-成分絡み目とする。L のある連 結成分上の一辺 ABをとる。空間内に点 Cを、三角形 △ABCとL とが辺ABのみで交わる ようにとる。このとき、Lにおける辺 ABを2辺AC∪CB で置き換えることにより、m-成分 絡み目 L′ が得られる。このようにLから L′ を作る操作、または、逆にL′ から L を作る操 作を絡み目に対する初等変形と呼ぶ。
A
B C
A
B C
m-成分絡み目 L1,L2 が同値(equivalent)あるいはアンビエント・イソトピック(ambient
isotopic)であるとは、有限回の初等変形、および、絡み目の辺への中間点の追加・削除を行っ
て、L1 からL2 へ変形することができるときをいう。向きづけられたm-成分絡み目L1,L2 に 対しても、同様にして、同値であるということを定義する。今度は、初等変形や辺への中間点 の追加・削除を行う際に、その前後で変化を受けない部分の向きが同じとなるように、各成分 に向きを入れながらこれらの変形を行う。
任意の絡み目 L ⊂ R3 は、必要ならば適当に有限回初等変形を行うと、射影 π : R3 −→
R2, π(x, y, z) = (y, z) に関して次を満たすようにすることができる:
(LD1) L の各辺はπ によって R2 の辺に写される。
(LD2) L の相異なる2つの辺のπ による像は高々1 点で交わる。
(LD3) Lの端点を共有しない2つ辺が π による像において共有点を持つときには、その共有
点は端点以外の点であって、一方の端点が他方の像上にあることはない(この状況を2 つの辺の像は横断的に交わると言い表わす)。
(LD4) Lの相異なる3つの辺のπ による像が1点を共有することはない(すなわち、π(L)は 3重点を持たない)。
L がR3 の中において上の条件を満たす位置にあるとき、L を図式を使って表示することが できる。ここで、L の図式(diagram)とは、(LD1),. . ., (LD4)を満たすように初等変形を施し た後の L′ の射影図D=π(L′) であって、その各交点に対して、交わっている2本の線分のう ちどちらが z-軸に関して上にあって、どちらが 下にあるか、という「上下の」情報を付けたも ののことをいう。この情報を図では、次図のように、線分に小さな切れ目を入れて表現する。
一般に、平面上に描かれたこのような図を絡み目図式(link diagram)と呼ぶ。
L に向きが与えられていれば、Lの図式の各成分にも向きが与えられる。すなわち、各成分 に向きの情報(これを矢印で表わす)が付与された絡み目図式が得られる。これを向きづけられ た絡み目図式(oriented link diagram)と呼ぶ。
(向きづけられた)絡み目図式があれば、それをもとにR3 内の(向きづけられた)絡み目を復 元することができる。
● 1 - 3 : 絡み目図式のReidemeister移動
3 次元空間 R3 内の絡み目は、絡み目図式という平面上に描かれた図を使って表示すること ができるので、絡み目を絡み目図式を通して研究することができる。しかし、射影π :R3−→
R2, π(x, y, z) = (y, z)に関して条件(LD1),. . ., (LD4)を満たすような位置への変形の仕方は一 通りではないし、その結果得られる図式も1つには定まらない。つまり、異なった絡み目図式 が同値な絡み目を表わすことがある。では、どんなときに2つの絡み目図式は同値な絡み目を 表わすのであろうか。その答えはすでに1930年頃、Reidemeisterによって与えられている。そ の結果を紹介する。
(RIII) (RII) (RI)
2つの絡み目図式が、前図に描かれている矢印の左側の部分と右側の部分だけが異なってお り、それ以外の部分は同一であるとする(絡み目図式が向きづけられているときには、移動の前 後で対応する成分の向きが同じになるものだけを考える)。
すると、このような2つの絡み目図式は同値な絡み目を表わすことが次の図のようにしてわ かる。
(RI):
∼
∼
(RII):
∼ ∼ ∼ ∼
(RIII):
∼ ∼ ∼
∼
∼ ∼ ∼
∼
∼
絡み目図式に (RI),(RII),(RIII)のいずれかを施して、新しい絡み目図式を作る操作のことを Reidemeister移動(Reidemeister move)という。同値な絡み目を表わす図式の変形は、Rei-
demeister移動の他に平面のイソトピーと呼ばれる移動もある。これは、(向きづけられた)絡み
目図式に対する以下の操作のことをいう。
(i) R2 に含まれる三角形による初等変形。
(ii) 辺の中間点の追加、削除。
(iii) R2 に含まれる三角形△ABCが (△ABC)∩D= AB∪MN (但し、M は線分 AB 上 にあり、N は BC∪AC上にあり、A,B,Cではない)を満たすとき、D の中の辺 AB をAC∪BCで置き換える。但し、新交点Nにおける上下の情報はMのものと同一と する。
∼
A C
B B
A C
M M N N
Dが向きづけられているときには、上記の操作の下で、その前後で変化を受けない部分の向 きが同一となるように、新たに得られる絡み目図式に向きを入れる。上記の3種類の操作を有 限回繰り返して、(向きづけられた) 絡み目図式D から(向きづけられた) 絡み目図式 D′ が得 られるとき、(向きづけられた) 2つの絡み目図式 D, D′ は平面のイソトピーで移り合うと呼ば れる。
次の結果は古典的である。
定理 1 - 3 (Reidemeister [86, 87])
L,L′ を R3 内の(向きづけられた)絡み目とし、D, D′ をそれぞれ L,L′ の(向きづけられ た)絡み目図式とする。このとき、L と L′ が同値であるための必要十分条件は、D′ が D からReidemeister移動(RI),(RII),(RIII) と平面のイソトピーを有限回施すことによって得 られることである。
● 1 - 4 : タングルとその図式
今後、Bn,Sn はそれぞれn次元標準球体(standard ball)、n次元標準球面(standard sphere) を表わす:
Bn={(x1, . . . , xn)∈Rn|x21+· · ·+x2n≤1},
Sn={(x1, . . . , xn, xn+1)∈Rn+1 |x21+· · ·+x2n+x2n+1 = 1 }.
B2 はD2 とも表わし、(2次元)円板(disk)と呼ぶことがある。Bnに同相な位相空間をn次 元(位相)球体、Sn に同相な位相空間をn次元(位相)球面と呼ぶ。
Sn の部分集合 Sn± およびSn0 を次で定義する:
Sn+={ (x1, . . . , xn, xn+1)∈Sn |xn+1 >0 }, Sn−={ (x1, . . . , xn, xn+1)∈Sn |xn+1 <0 }, Sn0 ={ (x1, . . . , xn, xn+1)∈Sn |xn+1 = 0 }.
B を3 次元球体とすると、同相写像ϕ:B3 −→B が存在するので、これを用いて、その表 面∂B =ϕ(S2) をS2+,S2−,S20 に対応する3 つの部分空間に分けることができる。これらの部分 空間をそれぞれ ∂B+, ∂B−, ∂B0 によって表わす。今後、特に断らない限り、3次元球体の表 面は、3つの部分空間 ∂B+, ∂B−, ∂B0 に分けられているものとする。これらを順に、B の上 半球面、下半球面、赤道と呼ぶ。
n を自然数とする。n-タングル(tangle)とは、3 次元球体B と B に固有に埋め込まれた 1 次元多様体 tとの組 (B,t) であって、以下の2 条件を満たすもののことをいう。(注:文献に
よっては「タングル」という用語は後述の「タングル図式」の意味で使われることがある。[50]
でもその意味で使われている。) (Tang1) ∂t⊂∂B,t∩∂B=∂t.
(Tang2) ♯(∂t∩∂B±) =n,∂t∩S20=∅.
ここで、3 次元球体B に固有に埋め込まれているという条件は、1次元多様体tの境界が∂B に垂直に接続していることを意味している。
タングルも絡み目と同様に有限個の線分を繋いだ折れ線でできているものとするが、それを 図示するときには滑らかな曲線で表示する。
同じ 3 次元球体B の中の 2つの n-タングル (B,s),(B,t)が同値(equivalent)であるとは、
∂s=∂tであって、かつ、(B,s) から(B,t) への境界上の各点を固定するアンビエント・イソ トピーが存在するときをいう。このとき、(B,s)∼(B,t) あるいはs∼tと書く。
n-タングル(B,t) が自明(trivial)であるとは、次の条件を満たす2次元円板(= 2次元球体)
∆⊂B が存在するときをいう:
B t
∆
∂B0
(TT1) ∆∩∂B =∂∆ かつ ∂∆は ∂B0 と2 点で横断的に交わる、
(TT2) t⊂∆かつ ∂t= (∂∆)∩t,
(TT3) tの各連結成分 ti について ♯(∂ti∩∂B±) = 1.
B を3次元球体とする。∆⊂B を(TT1)を満たす2次元円板とし、連続な全射q:B −→∆ を同相(B, ∂B+, ∂B−, ∆)∼= (B3,S2+,S2−,{0}×D2)を通して見たときに、丁度射影(x, y, z)7−→
(y, z) に一致するものとする。このとき、n-タングル(B,t) が∆に関して正則な位置(regular
position)にあるとは、次の条件を満たすときをいう。
(RP1) ∂t∩∂B± は ∂∆∩∂B± 上の n点集合である。
(RP2) q(t) は高々有限個の2 重点をもち、3 重点以上を持たない。さらに、各2 重点におい
ては 2曲線が横断的に交わる。
この状況のとき、n-タングル(B,t)を∆={0} ×D2 上の図式(= 射影図+各交点での上下 の情報)として表わすことができる((Tang1)により、∂tは{0} ×S1 上にあることに注意)。こ の図式をn-タングル図式(tangle diagram)と呼ぶ。タングルを図式を使って表現する際、∆の 境界は描かないこともあるが、描く場合には破線もしくはグレーの実線で描くことにする。
定理1 - 3と同様に端点が共通であるような 2 つの n-タングルが同値か否かはそれらの図式
がReidemeister移動 (RI),(RII),(RIII)と平面のイソトピーの有限回で移り合うか否かにより決
まる。但し、ここでのReidemeister移動(RI),(RII),(RIII)と平面のイソトピーは、タングル図 式が描かれている 2次元円板 ∆の内部でのみ行うものとする。
定理 1 - 4 (Reidemeister)
t,t′ を 3 次元球体B 内の∂t=∂t′ を満たす n-タングルとし、D, D′ をそれぞれ 2次元円 板∆上のt,t′ のタングル図式とする。このとき、tとt′ が同値であるための必要十分条件 は、D′ がDから ∆の内部でReidemeister移動(RI),(RII),(RIII)と平面のイソトピーを有 限回施すことによって得られることである。
§2. 有理数の連分数展開
この節では有理数の連分数展開について解説する。連分数展開については[35, 47, 63, 92, 102]
等に詳しい説明がある。この他一般向けの入門書として、連分数の発見から応用までを平易な 文体で魅力的に語った [60]がある。
● 2 - 1 : 実数の連分数展開
実数列 a1, . . . , an から作られる次の形の「分数式」を(正則)連分数(continued fraction)と 呼ぶ:
(2.1)
a1+ 1
a2+ 1
a3+ 1
. .. + 1 an−1+ 1
an
これを
(2.2) [a1, a2, . . . , an]
と表わす。但し、a1, . . . , an を勝手にとると、途中の [ak, ak+1, . . . , an] =ak+ 1
ak+1+ 1
. .. + 1 an−1+ 1
an
が実数として0 の値になる可能性がある。そのため、形式的に記号∞ を用意し、次の計算規 則を導入する:任意の a∈Rに対して
(2.3) a+∞=∞=∞+a, 1
∞ = 0, 1
0 =∞.
すると、連分数[a1, . . . , an−1, an]は a1, a2, . . . , an−1 ∈Rと an ∈R∪ {∞} に対して意味を持 ち、値は実数か ∞ となる。
例2 - 1 例えば、任意の a, b∈Rに対して [a] =a,
[a,0] =a+ 1
0 =a+∞=∞, [a,∞] =a+ 1
∞ =a+ 0 =a, [a0,0, a2] =a0+ 1
0 + 1 a2
=a0+a2 = [a0+a2]